【115C52 麻痺性イレウスとオピオイドローテーション】
さて、今回は解答速報でも各予備校の解答が割れ「どれが正しい答えだ!」と受験生の中もざわついた有名な問題ですね。
今年の医師国家試験は解答速報時の解答が予備校ごとに異なるといった問題が、この問題に限らず何問かあったのでいかに悩ましい選択肢が多かったか、ということが伺えますね。
このような割れ問題を解説するのは非常に難しいのですが、あくまで1個人の意見だということをご考慮の上、参考にしていただければと思います!
※繰り返しになりますが正確・正式な解答は各医師国家試験対策予備校の解答を参考にしていただくようお願い致します!
【115C52 問題解説】
内容をまとめると
「72歳女性、主訴は悪心、3年前に濾胞性リンパ腫と診断、薬物療法で一度寛解したが再発、2か月前に腰痛出現しNSAID内服するも増悪、オピオイド内服で腰痛消失するも1週間前から腹部膨満感、腹痛、食欲不振出現、昨晩から悪心も出現したため受診」
「腹部は著明に膨隆して腸蠕動音は減弱、両側下腿に浮腫、Alb低下、LD上昇、BUN上昇、Cre上昇、尿酸上昇、腹部単純CTで軽度腹水、niveauを認める」
といったところでしょうか
この問題の厚生労働省による公式解答は
e オピオイドスイッチング(オピオイドローテーション)です。
これが何と割れたかというと、ズバリ
a 腹水穿刺
なんですね!(私はこっちを選んでしまいました…泣)
順番に解説していきますね!
まず、治療抵抗性の悪性リンパ腫による疼痛緩和としてNSAIDからオピオイドに変更して1~2か月で悪心、腹部膨満感、腹痛、食欲不振といった症状が現れていますね。
そして身体診察で「腸蠕動音の減弱」とあります。
これらを総合して考えると、『オピオイドの副作用による麻痺性イレウス』がもっとも考えやすいのではないでしょうか。
オピオイドの副作用といえば、悪心・嘔吐・呼吸抑制が有名ですが、消化管蠕動運動抑制による便秘・麻痺性イレウスも起こりうるのですね。(参考:麻痺性イレウス│厚生労働省)
また、腹部単純CT所見のniveauの存在も麻痺性イレウスの所見と合致しますよね!
従って次に行うべき対応としては
オピオイドスイッチング(オピオイドローテーション)となります。
オピオイドローテーションとは、オピオイドの副作用により鎮痛効果を得るだけのオピオイドを投与できない時や、鎮痛効果が不十分な時に、投与中のオピオイドから他のオピオイドに変更することを言います。
日本緩和医療学会のガイドラインでも記載があり、今回は良い適応といえそうですね!
さて、ではなぜ解答が割れてしまったのかを考えていきましょう。
まず私は「両側下腿の浮腫、腹部膨満感」というキーワードに飛びついてしまい腹水貯留による悪心がおこっているのではないかと考えてしまいました。
そしてCTを確認すると肝臓の周りに薄っすら見えるlow density areaから腹水貯留ありととってしまい、
選択肢a 腹水穿刺を選択してしまったのですね。
要するにオピオイドによる副作用、niveauの存在を見逃してしまったわけです(試験時間中には全くわかりませんでした)
いまこうして復習してみて、このような結論になるのを防ぐ方法を2つ思いついたのでご紹介しますね!
1つ目は、身体診察所見
2つ目は、CT画像の読影
です。
まず1つ目、身体診察所見では、本問では「腹部は著明に膨隆して腸蠕動音は減弱している」とありますが、これはイレウスの所見であって、腹水貯留の所見ではありません。
腹水貯留時の腹部診察所見としては、「波動の触知、体位変換現象(siftingdullness)」が有名ですよね(参考yearnote2020)
この所見についての記載がないことから腹水貯留は否定できそうですね。
次に2つ目、CT画像読影では腹水貯留のCT画像をきちんと把握していたかがポイントになりそうです。
この画像と比較してみてください→112D43
この症例は、肝硬変による腹水貯留ですが明らかに今回のCT画像とは異なりますよね。
スライスの高さの違いも否めませんが、niveauの存在の有無も比較して明らかです。
以上2点よりこの症例は、腹水貯留ではなくオピオイドによる副作用での悪心を初めとした症状をきたしていることがわかりましたね。
と解説している私自身も実際、誤って解答してしまったので偉そうなことは言えませんが…
これこそ各予備校の解答が出るのが楽しみな問題ですね!
よく復習することをオススメします。
以上です!
115回医師国家試験、誤答問題の全問解説はこちら→【第115回医師国家試験、気ままな研修医による全問題解説】