【115D57 中年女性の倦怠感・認知症状の鑑別、Alzheimer型認知症vs慢性硬膜下血腫】
今回解説する問題は、国家試験終了時にあまりの難易度から、SNS界隈でもその正答について審議された問題ですね!
私の感想
— バク@精神科医 (@DrYumekuiBaku) February 7, 2021
「抗うつ剤が著効するうつ病の履歴のある患者に抗不安薬と睡眠薬だけ入れる精神科医はヤブ(激怒」
答えとしては頭痛もあるのでbが消しきれず(2ヶ月前だから慢性硬膜下血腫にしては長いか?)、全ての選択肢を消しきれずでした
医学生にこれはキツい https://t.co/NQLxmVSVUr
このように試験終了直後から、Twitterでも意見が分かれ、私自身も友人たちとこの問題について話をした覚えがあります。
115D15といい、今年の精神科・神経内科の分野は専門性の高い問題が多く、受験生にとってここまで対策させるのは少々酷かな…と私自身思いました!
ただ、そうとばかり言ってられないので問題解説へと移りましょう!
多くの受験生を困惑させた問題とはどのような内容だったのでしょうか…
一緒に見ていきましょう!
【115D57 問題解説】
問題文が長くなっているので、病歴をまとめて考えてみましょう。
中年期女性の倦怠感、認知症状の鑑別ですね。
考えられる疾患の中で、可能性の低いものを選ぶのですね(”高い”だと読み間違えて解答しないよう気を付けましょう)
まず、本問の患者はうつ病の既往があり、抗うつ薬服用の投薬歴がありますね。
最近、上司が変わりストレスを感じるエピソードについて記載もあります。
従って、a うつ病は可能性ありですね。
うつ病の症状の中にも”仮性認知症”といって認知症状をきたしうることもしられていますね。(参考:<うつ病性仮性認知症)
次に、中年女性、全身倦怠感、認知症状といえば、c 甲状腺機能低下症(橋本病含む)は外せませんよね。(参考:107A43)
また、抗不安薬、睡眠薬の服薬歴ありから、e 精神作用物質使用による精神および行動の障害も可能性がありそうです。BZ系の副作用に認知症ありですね。(参考:安定剤や睡眠薬(ベンゾジアゼピン系薬剤)と認知症)
さて残りは
b 慢性硬膜下血腫
と
d Alzheimer型認知症
の一騎打ちですね。
結論から先に言ってしまうと、実はd Alzheimer型認知症が否定的ということで
この問題の解答は d Alzheimer型認知症なんですね…!(解答:d)
まずb 慢性硬膜下血腫ですが、なぜ可能性としてあり得るのかを検証します。
本問患者のの訴えで、2か月前から「頭痛がする」とありますね。もしかしたら、2か月前以前に転倒の既往があったのかもしれません。
そのことについて記載はありませんが、どうも実臨床ではこのようなケースは多く、患者にとって転倒の既往がはっきりしないことも少なくないようです。
そのことについてはこちらの論文に記載がありました→”坂井志織/慢性硬膜下血腫“疾患前”の患者経験”
よって、bの慢性硬膜下血腫は解答とはならないのですね。
「転倒の既往がないからこれが間違い!」
ということでミスマークしてしまった学生が速報時では50%前後いたとか…(私も完全それでした(笑))
実臨床では常識なのかもしれませんが、なかなか厳しいですね…
さて一方、d Alzheimer型認知症は何が誤っているのか…
それはズバリ臨床経過なんですね!
Alzheimer型認知症は慢性疾患であり、通常その症状の進行に数年単位の時間を要します。
「軽度認知障害から認知症発症までの観察研究である米国(ADNI)研究では、記憶障害を有する軽度認知障害から認知症発症は1年で16%、2年で24%、3年で49%であった」
と報告されています。(参照:認知症診療ガイドライン2017)
一方、本症例では、「もともとうつ病の状態を除いては仕事は順調だった」状態から、約3か月のスパンで改訂長谷川式簡易知能評価スケールは9点(30点満点) と急激に認知機能が低下していることが分かります。
Alzheimer型認知症にしては、あまりに進行が早いですね。
従って、d Alzheimer型認知症が誤りということになります。
臨床の現場においてこの時間経過、臨床経過は問診すべき重要事項といえそうですね。
どうでしょうか。
過去の問題に認知症をきたす疾患の鑑別が求められたことはありましたが、
臨床経過からその鑑別を必要とする内容が問われたのは今回が初めてで、
多くの受験生が頭を抱えたことでしょう。
近年、臨床重視といわれる各論の臨床問題ですが
この問題はその傾向が色濃く表れた良問といえそうですね。
以前もお伝えしましたが、現在、臨床実習中の学生さんは
臨床の現場から学べることはないかと探求心を持ちながら日々を過ごしていく必要があるかと思います。
担当の先生に気になることを質問していっても良いと思います。
分からないことは自分で調べつつ、質問もしながら解決していく姿勢が国家試験合格へつながるかもしれませんね!
一緒に頑張っていきましょう!
以上です!
115回医師国家試験、誤答問題の全問解説はこちら→【第115回医師国家試験、気ままな研修医による全問題解説】