気ままなけんしゅー医のブログ

春から研修スタートの気ままな研修医のつぶやきブログです。

【115D69 肝機能異常・脂肪肝とその生活指導について CT vs 肝炎ウイルス vs お酒】

医療, 予定, 医師, ヘルスケア, クリニック, 健康, 病院, 医学, 診断, 衛生兵, メディケア

115D69の解説です。

 今回は解答速報で激割れ問題と判定された難問ですね!

多くの受験生が

「1つは選べたがもう1つで悩んだ」

と口にしていました。

私もまったくの同感で、最後まで選択を悩み最終的に誤答してしまいました…。

内容に関しては、健康診断とその結果に対する生活指導です。

単なる生活習慣病なのか…それとも疾患が隠れているのか…慎重に吟味する必要がありそうです。

内科総合的な知識とプライマリケアの力が問われるこの形式は近年よく出題されている単元なので本問を通してチェックしていきましょう!

 

 

 まずこの形式の問題を解くにあたってまず初めに確認すべきことは生活習慣病に関わる項目3つ

BMIの値

メタボリックシンドロームの基準を満たすか

・生活歴(飲酒・喫煙)について

です。

そのほかの項目は次に確認していくことになります。

 

まず、BMIについては下式

BMI=[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]

で求められることは、皆さんもご存じだと思います。

本患者BMI=80 kg÷(1.71 m)²≒ 27.4

BMI 25以上を「肥満」と分類するので、本患者は「肥満」と判断されます。

ちなみにBMIが25を超えると脂質異常症や糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクが2倍以上になり、30を超えると高度な肥満としてより積極的な減量治療を要するものとされています。(参考:BMI│e-ヘルスネット(厚生労働省)

本患者も生活習慣病のリスクは高くなりそうですね。

 

次にメタボリックシンドロームの診断基準は

【必須項目】

(内臓脂肪蓄積) ウエスト周囲径 男性 ≥ 85cm 女性 ≥ 90cm

 【選択項目 3項目のうち 2項目以上】

1. 高トリグリセリド血症 かつ/または 低HDLコレステロール血症 ≥ 150mg/dL   < 40mg/dL

2. 収縮期(最大)血圧 かつ/または 拡張期(最小)血圧 ≥ 130mmHg   ≥ 85mmHg

3. 空腹時高血糖 ≥ 110mg/dL

 と決められています。(参考:メタボリックシンドロームの診断基準│e-ヘルスネット(厚生労働省)

少し覚えにくいところですが非常に重要なので頑張って覚えましょう。

本患者では、文中にウエスト周囲径の記載がないためメタボリックシンドロームの診断基準を満たすことはありませんが、

重要なのは選択項目の方です。

メタボリックシンドロームに関わらず、押さえておくべき項目としては重要です。

順番に見ていくと

1. トリグリセリド 160mg/dL、HDLコレステロール 36mg/dL より該当。

2. 記載なし(ということは正常か)

3. 空腹時血糖 98mg/dL より非該当。

よってこの患者では、1のトリグリセリド、HDLコレステロールの項目のみ該当していることが分かります。

 

最後に飲酒・喫煙について確認します。

飲酒:2年前の健康診断で肝機能異常があったが、詳しい検査は受けず、自己判断で飲酒量を減らした。現在は350mLの缶ビールを週に1~2本飲んでいる

喫煙:25歳から1日20本喫煙しており、6か月前から加熱式タバコに替えている

ということですね。

 

そのほかの項目で確認すべきは血液検査所見、エコー所見です。

血液検査:AST 90U/L、ALT 85U/L、γ-GT 60U/L (基準8~50)

エコー:脂肪肝を認めた。

 

高脂血症に加え、肝機能異常、脂肪肝を認めますね…BMI>25であることも併せて考えると疑われるべき疾患として

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)

が鑑別として挙げられます。

NASHについては→こちら(NASH│MSDマニュアル)をご参照ください。

一つ一つの選択肢をみるには→『日本消化器学会 NAFLD/NASH 診療ガイドライン2014』が参考になるかと思います。

(ちなみに現在『日本消化器学会 NAFLD/NASH 診療ガイドライン2020』が出版されておりそちらが最新のものになりますが、ガイドラインの購入が必要なので最新の知見を調べたい方は各自でお求めください)

 

 

情報をまとめたところで各選択肢を考察していきます。

a 「腹部のCT検査をしましょう」

→✖ NASHの確定診断には肝生検が必要で、腹部CTは鑑別のための検査としては不適当です。また、腹部症状もなく重篤な腹部疾患は考えにくく、この時点でCT検査は不要ですね。

b 「運動と食事を検討しましょう」

→〇 これは言わずもがなですね。99%の受験生が選択していた悩まない選択肢です。BMI>25にはマストです。

c 「肝炎ウイルスの検査をしましょう」

→〇 選べなかった受験生も多かったと思いますが、「NASHと診断するために除外すべき疾患として、脂肪肝を呈する他の慢性疾患で、アルコール性肝疾患、ウイルス性肝炎(HBVHCV)、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、代謝性肝疾患(Wilson病やヘモクロマトーシス)」が挙げられるそうです。従って除外のために肝炎ウイルスの検査が必要ということですね。ちなみに過去問文中(参考:105I46)でもしっかりと鑑別されていますね。

d 「加熱式タバコはこのままでいいです」

→✖ これも選んだ人ほぼ0%でした。紙タバコも電子タバコもダメなものはダメです。

e 「お酒は完全にやめるほうがよいでしょう」

→✖ NASHのガイドラインによると、「男性は30g/日未満、女性は20g/日未満の飲酒量」が診断基準とされていますが、これはアルコール性肝障害を否定するための基準であって、基本的にはこの数値以下の飲酒量なら許容範囲と考えられます。従ってこの患者に対して、断酒を強要するのは不適当といえます。

 

解答:b、c

 

 いかかだったでしょうか。。

ガイドラインをしっかりと把握していないと完全解答とはいかなさそうですね。

ただ、この問題を通して学ぶべきは、

「確定診断ができているのか、鑑別疾患をあげるべきなのか」

をはっきりさせる必要があるということかと思います。

プライマリケアの現場における、問診→検査→治療の流れの中で、疾患を決め打ちしてはならない。という考え方が問われているように私は感じました。

近年の国家試験は「モヤ」のかかったはっきりしない問題が増えてきているので自分で鑑別診断を考えられる力はますます必要となりそうですね。

これらの力は国試のみならず、ポリクリ臨床研修、Post-CC-OSCEでも生かされること間違いなしです。

問診→鑑別診断の力を強化していきましょう!

以上です!

 

115回医師国家試験、誤答問題の全問解説はこちら→【第115回医師国家試験、気ままな研修医による全問題解説】