【115D71 絶食保存療法後のPT-INRの上昇の原因について】
さて今回は速報時正答率27%の超難問の解説ですね!
私自身解いていてまったく自信がありませんでした。
実臨床に近い内容かつこれまでの国家試験で直接問われたことのなかったテーマだっただけに過去問を十分に対策してきた受験生であったとしても、自信をもって解答を選ぶのは難しかったのではないでしょうか。
知識に加えて、思考力・その場で考える力が問われた良問だったように思います。
どのように解答に至るべきだったのか一緒に問題を確認してみましょう!
【115D71 問題解説】
問題文が長くまとめることは多いですが、問われている内容は
「この患者でPT-INRの上昇に影響したのはどれか。」
ということですね。
もともと、主訴が「発熱と心窩部痛」で熱源の精査と病因を特定する必要がありますが、「腹部超音波検査で胆嚢の腫大と壁肥厚を認め」とあるので急性胆嚢炎を発症していたことが分かります。
急性胆嚢炎の3徴:発熱、黄疸、右季肋部痛
は有名ですよね。(参考:急性胆管炎・胆嚢炎診断ガイドライン2018)
急性胆嚢炎の治療といえば、
・保存的治療(支持療法):水分補給、鎮痛薬、抗菌薬
・外科的治療:胆嚢摘出術
がありますが、今回は、76歳と高齢であったこと、ステロイド薬・ワルファリン内服歴、症状の強さなどから、コンサバ(保存的治療)選択していますね。
「入院絶食下で末梢輸液および広域セフェム系抗菌薬の点滴静注が開始された。」
と記載がありますね。
その後、「治療開始後5日目に症状は軽快し」とあるので保存的治療が上手くいったことが示されています。外科的治療は必要としなかったことがわかります。
ただ、「1週後の血液検査でAST、ALT、CRPは低下していたが、PT-INRが4.2と上昇していた。」
とあり、肝機能マーカー、炎症所見の改善を認めるものの、PT-INRの上昇を認めています。
これがなぜか?というのが今回のテーマですね。
まずそもそもPTとは
プロトロンビン時間(PT)=外因系凝固因子の機能を計るための指標
のことで
先天性凝固障害、ビタミンK欠乏症、肝障害、出血や播種性血管内凝固症候群(DIC)などの後天性凝固障害の診断や、ワルファリンによる抗凝固療法のモニタリング検査に使用されています。
なかでもワルファリンのモニタリングには、PT-INRという指標によってコントロールされることが多く、
WHOの標準トロンボプラスチンを基準(PT-INR=1)に、
PT-INRが2.0~3.0となるのを目標にしていきます。
その値が今回、急性胆嚢炎に対する保存的治療の後に、4.2と上昇してしまっています。
ここで考えるべきこととしては、PT-INRに大きく影響を及ぼす因子として、
ビタミンKがあるということです。
「ワルファリン内服時に納豆禁忌」というのは有名ですが、これは納豆に含まれるビタミンKが凝固因子を活性化させ(2,7,9,10因子(「肉納豆」で覚えますね))
ワルファリンの作用を減弱させてしまうからでしたね。
逆に言うと
このビタミンKが足りなくなると、凝固因子が抑制されPT時間が延長し、PT-INRが上昇してしまいます。
実はこの問題はこの考えをベースに解答を選ぶことになります。
さてどういうことでしょうか…
ビタミンK欠乏をきたす原因としては
①ビタミンK摂取量の著しい減少
②腸内細菌叢の減少、あるいはビタミンK非産生菌への移行
③胆汁流出障害や吸収不良症候群によるビタミンK吸収量の低下
④ビタミンK還元サイクルの障害
が挙げられます。(参考:絶食・抗生物質投与によるビタミンKに起因すると思われる凝固障害で硬膜外穿刺部より多量の出血を認めた1例)
これに沿って本問の選択肢をチェックすると
b 入院後の絶食によって胆汁流出が障害されたこと
d 広域セフェム系抗菌薬によって腸内細菌叢が減少したこと
によってビタミンKの吸収量が著しく減少した可能性が考えられますね。
従って本問の解答(2つ選べ)は
b 入院後の絶食
d 広域セフェム系抗菌薬
解答:b,d
ということになります。
念のため他の選択肢も見ておきましょう。
✖a 腎機能障害:腎臓が悪いとワルファリンが代謝できず、PT-INRも上昇するのでは…?と考えましたが残念。ワルファリンは肝代謝の薬剤です。腎機能により作用が増強することはないようですね。(参考:ワーファリンの薬物相互作用)
✖c 治療前のCRP値:PT-INRには全く影響ありません。ほとんど選択した人はいなかったようです。
✖e 副腎皮質ステロイド薬:これもビタミンKやPT-INRに影響を及ぼすことはありません。これもほとんど選ばれなかった選択肢です。
さていかがでしょうか…
PT-INR上昇→ビタミンK欠乏!
とピンときた方はいたかもしれませんがそこから選択肢を選ぶのはさらに難しかったかもしれません。
私自身ここまではなんとなく思ったのですが、dのセフェム系抗菌薬を点滴静注していることから腸内細菌叢に影響を及ぼさないのではないかと考えて外してしまいました。
しかしながらよくよく考えると、セフェム系の抗生物質は初回通過効果(first-pass-effect)が大きく経口投与がなされることはまずないことに加えて、腸内細菌叢の菌交代現象を原因とする偽膜性腸炎もしっかり起こし得ることから、腸内細菌叢が減少してもおかしくはなさそうだということにこうして解説を考えている途中に思いました。(参考:セフェム系抗菌薬│日経メディカル)
ただここまで、考察を深めるのを試験中、それも国家試験本番の緊張している状態に制限時間の中で行うのは、至難の技だと思います。
これから受験する方にとってはある意味手ごわい問題かもしれませんが、こうした内科総合的な知識を過去問対策の中で身につけておくことが
各論対策には必要なのかもしれません。
特に高得点を狙っている層にとっては押さえておくべき内容だと思います。
何度も問題を見返して自分の中で思考を深めていきましょう!
以上です!
115回医師国家試験、誤答問題の全問解説はこちら→【第115回医師国家試験、気ままな研修医による全問題解説】