気ままなけんしゅー医のブログ

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【115F64 動脈血ガスの採血結果の解釈とその後の対応について】

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115F64の解説です。正答率94%

さていよいよ『115回医師国家試験 誤答問題全問解説シリーズ』も残すところあと一問となりました。

思えば、

「自分のため、そしてこれから医師国家試験を受験する学生たちのために自分自身の誤答した問題の全問解説をするぞ!」

と、突然目標を掲げてから、はや2か月が経ちました。

何の気なしにコツコツと書き続けてきましたが、最後となると何故か感慨深いものがありますね。

まだ市販の過去問解説書が発売される前にこの記事を書き始めたので、

問題片手に1つ1つ教科書やネットのもっともらしいガイドラインやホームページを参考にして解説を作り続けてきました。

解説として至らない点も多いかと思いますが、

みなさんにとって、これらの解説が役立つものになってくれればそれ以上に嬉しいことはありません。

ぜひ最後まで目を通していただけると幸いです。

ではでは最後の解説と行きましょう!

115F63~問題全文・画像はこちら

今回解説するのは、115F63~65までの臨床三連問の真ん中の問題ですね。

正答率も94%と高く、本番の疲れと焦りから最後の最後でマークを変えてしまい間違えてしまったのを覚えています。

やっぱりマーク試験は初志貫徹が大切ですね。

問題文を簡単にまとめてみると

83歳男性。主訴は食欲低下。現在進行中のAlzhiemer型認知症と内服加療中の糖尿病の既往があり、現病歴として2週間前の発熱のエピソード、3日前からの喀痰量の増加などを認めています。

バイタルは、意識レベルはJCS I-2。身長165cm、体重60kg。体温37.0℃。脈拍96/分、整。血圧106/60mmHg。呼吸数22/分。SpO2 94%(room airと軽度意識障害と軽度酸素化低下を認めます。

身体所見では、coarse cracklesを聴取し、血液検査では炎症反応上昇、BUN/Cre比上昇、血糖値上昇等の異常を認めます。

これらの状況から、

呼吸器感染を疑い、115F63では「次に行うべき検査として」

d 胸部エックス線撮影

を施行しています。

 

そして続いて115F64では、動脈血ガス分析の結果が明記されています。

これは、本患者の①酸素化(PaO2)、②換気(PaCO2)、③酸塩基平衡(Na、Kなど)を評価するために施行されたものと思います。

そのデータとしては

「動脈血ガス分析(room air):pH 7.38、PaCO2 45Torr、PaO2 30Torr、HCO3- 26mEq/L」とあった。患者の呼吸数やSpO2(room air)は来院時と変化はない。」

とあり、PaO2の値が正常値(若年成人で100mmHg、老年健康者で約80mmHg)から大きく低下しており、(もしこのデータが正しいとすると)

酸素化の指標であるP/F比も30/0.21(room airより)からP/F≒142と重度呼吸不全の値を示しています。(P/F≧400で正常。≦200で重度呼吸不全)

しかしながら、本患者の呼吸数は22回/分、SpO2 94%と軽度異常にとどまり、ここまでの重症呼吸不全をきたしている状態とは言えません。

では、なぜここまで実際の臨床所見と血ガスデータに乖離が生まれてしまったのでしょうか。

ヒントは115F64の最後の1文、

「採血時の状況を確認すると、シリンジヘの逆流が弱く陰圧をかけながら採取したとのことであった。」

です。

 

動脈血ガスの採血の際に陰圧をかけるとどのような現象が起こるのでしょうか…?

それは、『プレザパック II(血液ガス測定用採血キット)の添付文書』の中に記載があります。

これによると、陰圧をかけて吸引採血をしてしまうと血液に空気が混入してしまうそうです。

従って採血データが真の値とずれて分析されてしまった結果、乖離が生じたというわけですね。

 

※公式解答より上記の解答に誤りがありましたので訂正します↓

そもそも、採血時に陰圧をかけなければならなかったということが手技に誤りがあったことを示唆しています。

どういうことかというと、

動脈内は圧が高いため、採血の際には陰圧をかけずとも採取することが可能なのです!

これは研修医として必須の手技、動脈採血を行っている今となっては当然の知識なのですが、動脈に上手く針が刺さった際には自然とシリンジ内に血液が満ち、その色は赤々としています。

しかし、今回の文中には「シリンジへの逆血が弱く陰圧をかけた」とあります。

本当に動脈を上手くさせていたとしたらおかしいですよね。

これは誤って、静脈を穿刺してしまっていることを表しています。

静脈はその圧が弱いため、採取時にはシリンジに陰圧をかけて引く必要があります。採血をしたことのある皆さんなら実感が湧くはずです。

つまりPaO2 30Torrというのは静脈の酸素分圧を計測してしまっているデータとなるのですね。

(参考:115F64

 

従ってここで「行うべき対応としては」

e 動脈血を採取しなおして分析する。

ですね。解答:e

 

次は落ち着いて、きちんと動脈を穿刺できるように再トライすべきですね。

ところでなぜ動脈と静脈を誤って穿刺してしまうような事態が発生するのか不思議に思った方もいらっしゃるかもしれません。

その理由についても軽く触れておきます。

動脈採血の穿刺部位としては一般的に大腿動脈か橈骨動脈が選択されます

手技に自信があれば橈骨動脈からのアプローチもありますが、手技の簡便さや血培も含めて十分量の血液を採取する際には大腿動脈からアプローチすることが実際の臨床現場だと多いイメージです。

動脈穿刺に関しては写真付きで過去問でも出題があります→102C12

大腿動脈から穿刺する際には

鼠径靭帯の尾側、で拍動の触れる位置を目掛けて穿刺します。瘦せ型の方なら拍動点が明らかなので目視でも確認できる場合がありますが、鼠径部の脂肪が多い方だと左手の感覚のみで穿刺しなければならないケースもあります。

すると、大腿動脈を穿刺したつもりでも、その内側に位置する大腿静脈を誤って穿刺してしまうことがあるのです。はじめ血管に触れた際には一瞬逆血がきますが、勝手にシリンジ内に血液が満ちることはありません。圧が弱いためシリンジに陰圧をかけないと採取できないのですね。色は青黒くいかにも静脈の色をしていることが多いです。

先に述べたように、血培も併せて採取する際には20ccの血液が必要になるので大腿動脈を穿刺した際も陰圧を軽くかけて採取することになりますが、おそらく上手く引けずかなり強く陰圧をかけて採取したのではないかと思います。

慌ただしい救急外来では起こりそうもない、測定時のミスが起こってしまうケースもあるという警鐘の意味でも本問は作成されているのかもしれません。

国家試験の作成委員からするとおよそありえない測定時ミスだと思うので、近年の国試は研修医なりたての医師がおかしがちなミスを問題にしているというところに驚きました。

 

陰圧をかけないよう注意しながら、空気に触れることなく検査を施行する必要があるのですね。

(※空気中のPaO2分圧は約160mmHg、PaCO2分圧は約0mmHgなので、検体の動脈血と混合すると、本来の値よりPaO2は上昇し、PaCO2は低下するように思いますが、本問のデータでは、PaO2のみ低下し、PaCO2には値の変化は見られません。どうしてこのような結果になってしまったのか、というところまではネットや参考書中心に調べ上げましたが結論には至りませんでした。この理由について、お分かりの方がいらっしゃいましたら、ご報告・ご連絡頂けると幸いです。)

 

私は、最後の最後悩んで、動脈血ガスのデータが誤っていることなんてない!と思い違いをしてしまい、SpO2も94%と軽度低下していたので

b 酸素投与を開始する。を選択して間違えてしまいました。

検査データよりも実際のバイタルや身体所見を重視すべきなのは必修問題を解く際にも重要なポイントでしたね。

今回もその意識が必要だったみたいです。

ちなみにこの動脈血ガス分析の採血の際に注意すべき事項については、これまでの医師国家試験でも既に出題があります→111F9 動脈血ガスの採血

当時の必修一般問題で正答率67%とやや割れ問題となっております。必ずチェックしておきましょう。

 

さていかかだったでしょうか。

本問に関しては、正答率が高くあまり話題になることはありませんでしたが、実際に解説してみるとなかなか考えることの多い問題だったように思います。

受験生の中でも、その解答の理由を正しく説明できる人は多くはなかったのではないでしょうか。

また、先ほど紹介した過去問既出の知識ではありましたが、その選択肢の内容と意味について深く・正しく理解していた人は少数だったかもしれません。

繰り返し伝えてきたことではありますが、近年の医師国家試験では臨床重視の傾向が強く、

実際の臨床実習の中で遭遇する様々な事柄について疑問を持ち、積極的に参加する姿勢が求められているように感じます。

分からなかったことは自分で調べた上で、他の学生や指導してくださっている先生方に疑問をぶつけてみてもよいかもしれません。

かならずや、目の前の医師国家試験、そしてその後の臨床研修に役立つことと思います。

日々知識をアップデートし、昨日の自分、そして今の自分より確実に成長していけるようにコツコツと努力を続けていきましょう!

私もみなさんに負けない気持ちをもって日々レベルアップしていければと思っております!

ではこれで全てが以上となります!ありがとうございました!

 

115回医師国家試験、誤答問題の全問解説はこちら↓

【第115回医師国家試験、気ままな研修医による全問題解説】